『ぼくはきっと旅に出る』のはなし
更新日:2021年3月24日
東京の美大を卒業して、絵画教室で働いて、
生活が追いかけてきて、追い抜かれたりして、
1日1日どんどん過ぎていった。
ぼくと彼女はそんな毎日のすきまで、新天地を《福岡》に決めた。
それからはどんなことがあっても「その日」のために生きていた。
引っ越し当日、大学を出てからずっとお世話になった家がガランとした時、
不思議と感傷的でもなかった。
引っ越し作業を無事に終えられたことに安心しながら、
どっか旅行にでも行くような気持ちで家を出た。
いつも西日がすごかった玄関前の廊下には、きれいな夕日がおちていた。

中学生のあの日から「ブルーハーツ」一筋だったぼくは、ヒロトとマーシーにどっぷりで
そのあたりの音楽ばかり聴いていた。が、彼女に出会ってから少しずつ変わり始めていた。
ある日のドライブの行きで借りた10枚くらいのCDの中にスピッツ はあった。
たまーにある「改めての出会い」だった。
CMでは聴いたことがあったけど、友達のiPodで聴いた時に上からまっすぐ刺さってきた「情熱の薔薇」の時みたいな「改めての出会い」。
ぼくのこの絵にはカモメが飛んでる。
カモメに見えなくっても全然正解です。
ぼくにとってカモメはハイロウズの「十四才」
とっても大切な日を歌ったこの曲を聴いていて浮かぶ情景、
この絵のヴィジュアルはずっと前から頭の中にあった気がする。
「僕はきっと旅に出る」というスピッツの曲がある。
「僕はきっと旅に出る 今はまだ難しいけど…」 『きっと』、 『今はまだ』、
こんなに等身大の言葉があったのかとびっくりした。
誰かに優しくしようとか、誰かの背中を押そうとかじゃなくって
正直な1人の気持ちが伝わってくる素敵なバランス。
頭の中の情景にぴったりだったので引用しようと思いました。

「こんな絵にしよう」とかねらいは一切ないのに、この絵が今このタイミングで生まれたのは本当にぴったりで、
心のふかいところでも「《新天地》でがんばるぞー!」って気持ちが強くあるんだなあと
感じたり、表裏一体で怖いんだろうなあと思います。
でも、福岡に来てから色にとらわれなくなりました。
ぼくの制作の中心には、いつも何かからの解放があります。
青臭い意味じゃなくって、「描き方」だったり、「線画」、今回は「色」みたいに
急に見え方が変わって、突破口がズバーンとひらくようなそんな時です。
昨日までと同じようでいて100倍自由な感じです。
「空の色だって木だって海だって、自分の絵の中では自由なんだから。」
絵画教室で自分が子供たちに伝えていたことなのに、今わかりました。
ぬりえを独創的な色で個性的に塗れるようになるのは、
経験の少ない生まれて間もない時か、生活と一緒に歩ける余裕をみつけた時なんだなあと思いました。
それは1日1日の目標がただ「生きること」な時なのかもとか思います。

『いちのせかぶと展 絵はいろとおと』
4/13(火)〜18(日)
12:00〜19:00(4/18 〜17:00)
アートギャラリー絵の具箱 (オンライン展示・販売あり)

